4.1 神代紀上の核と謎

「古(いにしえ)に天地(あめつち)いまだわかれず、陰陽分(めおわか)れざりしとき……」から始まる前半部分を思い切って省略し、イザナギ、イザナミ(以下、ナギ、ナミ)夫妻の国生み(くにうみ)、神生み(かみうみ)あたりからみていくとしよう。国土に次いで海や山川草木を生み終えたナギ、ナミ夫妻が次に生んだのは、天上界の支配者・日の神アマテラス(天照大神)と月の神ツクヨミの二神であった。次に役割の不明な蛭児(ひるこ )を生んで海に放棄したあとに生んだのが、なぜか、はなから根()の国に追放されることになるスサノオ(素戔嗚尊[すさのおのみこと])であった。
 スサノオは追放される途次、出雲国に降臨、そこで今にもヤマタノオロチに呑みこまれようとしていたアシナヅチ、テナヅチ夫妻の若き娘稲田姫を救出、やがてその娘と結婚。二人の間に大己貴(おおなむち)(『古事記』ではオオナムヂ)が誕生したとして神代紀上の本文は閉じられる。続いて、七つの異伝が示されるが、その六番目の異伝(一書⑥)には大己貴の六つの異名(大国主、大物主[おおものぬし]、国作大己貴[くにづくりおおなむち]他)が示され、その中の一つ大物主がヤマト初代神武天皇の后であるヒメタタライスズ姫の父であると告げられる。
 どうやら神代紀上の核はこの系譜を示すことにあるようで、それは図のように
なる(ここで大己貴の横に括弧付きで事代主[ことしろぬし]を添えた理由は後で説明する)。
 核はそれとして、神代紀上には、大変不可解ながら、古代史復元上見逃せない重要な記述が二点ある。
 一つは俗にアマテラスとスサノオのウケイとして知られる五男三女の誕生がそれで、詳細はすでに1.2 第二のメッセージで述べたので、ここでは再述しないが、結論だけ言えば、それはアマテラスを三女神に、スサノオを五男に分身させるための『書紀』苦心の創作であった。
 さて、もう一つの重要点は神代紀上の最後の最後(第八段一書⑥)に、大己貴が、国作(くにづくり)大己貴とされ、大和朝廷初代天皇神武をさしおいて、それ以前に国づくりをなした神とされていることである。
 しかもその様子が、さりげなく、「少彦名命(すくなひこなのみこと)と力を合わせ心を一つにして天下を経営」とか、「少彦名命なきあとは、一人よくめぐり造る」と描写され、最後には(ヤマトから)出雲国に到って(戻って)、自問自答の末に、自身がヤマトの三輪山に祭られる神であると吐露するストーリーが展開されている。
 これは、ヤマト朝廷開闢(かいびゃく)直前のわが国がなんらかの形で大己貴によって支配され、また、その国の対象場所として少なくとも出雲とヤマトとが含まれていることを暗示しているように思われる。ところが、このストーリーは次に述べる神代紀下とは著しく不整合で、読者に不信感だけを植えつける内容となっている。
 なぜわざわざ、『書紀』は神代紀上の最後にこのような話を挿入したのか、『書紀』の意図は一体なんであるのか、その考証は神代紀下の核と謎を追う中で続けたい。

 

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